◇テーマ:「強みに焦点をあてることの難しさ ~対人援助・人材育成の視点から~ 」
日本の児童福祉界における「強みを焦点にあてた支援」の現状とその課題について、各期会員からの報告と講師からの提言をもとに活発なディスカッションを展開し、今後のSTARS研究事業に繋げていくことを目的とする。
◇主催:STARS(NeCST)
◇共催:資生堂社会福祉事業財団
◇講師:増沢 高 氏
(子どもの虹情報研修センター 研修部長 STARS23期)
◇日時:2010年2月2日(火)13:00~2月3日(水)12:30
◇会場:成田ビューホテル
◇参加者:27名
<1日目 問題提起>
1.「脳と愛着の関係をどうとらえるか」
児童養護施設児童ホーム 内海新祐(32期)
1) 私の理解する「ストレングス」は、子どもが諸条件の中で対処努力しながら生き延びていて、「強み」もそこにある。
2)愛着は手段である。何が子どもにとって安心を得るための工夫になっているのかという観点が必要。
3)「個体のパフォーマンス」と「脳内で起こっていること」の対応関係や、養育者(環境)との相互作用の中で脳が育まれていくことは確かなことである。
4)「ヘルシースタート」は子ども虐待予防プログラムとして優れている。しかしその実施地域の虐待件数は増加している。
日本の予防政策の幅広さと制度としての安定性は強みではないか。例 乳幼児健診
愛着理論や脳科学は、事物を違う角度から眺めて「察する力」を手助けしたり、よき実践の裏づけやその継続を応援したりするのに役立つ。しかし知識は諸刃の剣なので注意を要する。
2.「個人の力と家族の力」
児童家庭支援センターあすなろ子育て広場 砂山真喜子33期)
1)親権にまつわるフランスと日本の違い
子どもの人権を保障するために親の権利と義務を定めている。どんな未熟な親であっても抱えている問題を解決し成長する権利がある。子どもは可能な限り親元で育てられるのが望ましい。宗教観の背景もあり親権放棄は罪に値すると考え、親権喪失はない。
2)社会福祉に対する両国の考え方の違い
フランスでは1989年子どもの権利条約批准以降、関連法の更新を続けている。権利は自分達の手で勝ち取るものであり、必要な時に利用するのは当然であると考えている。支え手としての国民の活動も活発である。海外研修での学びを通じて、幸福や豊かさなど人としての本質を問われた。
3.「子どもと家族の持つ力に注目した支援」
同仁会児童家庭支援センター 芳賀 英友(34期)
1)ファミリーグループカンファレンス(FGC)の最大目標は、子どものパーマネンシー(ケアの継続性)の保障と家族のエンパワメントである。公の支援に加えてファミリーグループ=拡大家族(家族や親族に加え親しい友人やその子どもが信頼を寄せている人物までを含む)を活用して問題解決を図り、その意思決定過程に参画することがポイントである。
2)FGCの根底にある理念は、ストレングスとエンパワメントである。その人ならではの力(良さ)があることを信じ、誰もが持っている問題解決の力が発揮されるように援助を展開する。
3)自身の援助を振り返える
来所相談者への選択を引き出すために、その人に共感的に寄り添いながら正しい認識を、その人にとって理解が容易な方法で伝えられば、その人適した改善策を自身で見出せるのではないか。
私の思うFGCとは、相談者にとって地域の味方が増える、安心して自分の痛みを相談できる、本人の選択を支援に反映できることである。
4.「コモンセンス・ペアレンティング導入についての提言」
児童養護施設八楽児童寮 太田一平(15期)
1)STARSは児童福祉のシンクタンクを目指しているが、従来の一過性の知識習得型研修は効果が低いことは事実。今後は、戦略的人材育成の必要性を見直して、養育技術の習得・普及を目指すべきである。
2)子ども虐待予防プログラムとして、アメリカ・ボーイズタウンのコモンセンス・ペアレンティング(CSP)がある。子どもの発達に応じて行動に着目し、褒めて良い行動を強化するなどソーシャルスキルの習得を目的とし、養育技術の習得と人材育成がリンクしている。
3)日本における可能性として、NPO法人日本子ども養育研究会の設立し、CSPの日本導入を目指す。
現在、2つの児童養護施設においてプログラム実践と効果測定を実施している。
4)戦略的人材育成の提案として、早期にCSP幼児版の翻訳と指導マニュアルの完成を目指す。
5) STARSと日本子ども養育研究会がフォローアップセミナーを共同開催し、その研修団員がCSPを受講し、受講者は日本子ども養育研究会から認定書を授与され、プログラムの使用を許可される。
6) STARSのメンバーが海外研修で得たプログラムを日本の実情に合ったものにアレンジし、養育モデルプログラムを普及させ、フォローアップセミナーを実施して継続研修体制を構築していく。
<1日目 講演及び講評>
「強みに焦点をあてることの難しさ~対人援助・人材育成の新しい潮流~」
子どもの虹情報研修センター 研修部長 増沢 高 氏
・援助技術は日本版のプログラムを開発し、個別に応じた利用が有効ではないか。そのためには子どもの個別の見立て・理解が必要である。
・子どもの「強み」に着目することは自明のことではなかったか。「強み」と「弱み」をバランスよく見立てることが重要であり、「弱み」を軽減することが生きにくさの軽減につながる。
・海外研修によって自国の弱みを批判的に見るようになる。そればかりではなく、積み重ねてきた自国の養育の強みを再発見できるのではないか。
1、見立てとは
(1)個別的理解
年齢や性別などマスとして捉えるのではなく個別的に理解する。
問題行動のみではなく全体像を捉え、その子の歴史性(ストーリー)理解に努める。
(2)見立ての3要素
生育歴・行動観察・医学的所見・心理諸検査等の情報を総合的に把握・吟味し、主訴や症状、問題行動を含めた子ども(養育者)の全体的なありようの背景にある本質的な問題を理解し、今後治療過程で起こるであろうことを、その危険性に十分配慮しながら予測し、援助方針を立案。
(3)精神医学的「診断」
原因の明確化が困難であり、症状の分類学的整理である。
(4)総合的な情報の把握
日常生活と面接時の行動観察 医学的所見 心理検査 生育歴 家族の状況と歴史 学校や地域
(5)援助者に求められること→見立て力の向上
情報に開かれた姿勢・行動観察 援助者としての経験・ケースの積み重ね 想像力・発想力
人間に関する理論・知見 人間や歴史・人の営みへの尊敬・信頼・希望
2、日常生活の情報把握
(1)子どもを捉える視点
基本的生活習慣 情緒行動 援助者や友人との関係 身体発達 学校での様子 その他
(2)見えやすいものと見えにくいもの
子どもの見えにくい隠された問題や症状、潜在しているよき資質は援助者がキャッチすることが重要。
3、生育歴
人間は歴史的存在である。
例 FGC 協働養育者として家族とともに、「一緒にこの子の生育歴をおさらいしたいのですが・・・」と提案してみてはどうか。乳幼児期の発達に注目する。例 「2歳で離婚」→情報を流さない→別れの体験への対応は? 身体的虐待+ネグレクト=死に繋がること→生き抜けて救われた点もある
4、家族の状況と歴史
家族はハイリスク→どう対処してきたか? 面会や外泊があるかないかだけの見方ではなく、他の交流のアイデアを提案する。子どもの家族像を理解し続ける。家族とのよき関わり・思い出を大切に育む。
5、 学校や地域の情報
以前の情報=強みを引き継ぐ。抱え込まずにチームの一員としての自覚がいる。チームによる総合理解が大切であり、関わって子どもの強みを見つけ続け、見立てを修正していく。子どもや他職員へ「気づき」を伝える=エネルギーを配る。養育は効率的でなく明確な正解はない。誕生から試行錯誤の連続である。そこではコミュニケーションのあり方が問われる。悩みを抱えながら持ちこたえられる強みや曖昧さへの耐性をもつことが求められる。子どもの強みや変化への気づきが援助者としての強みになる。他者からの照射によって援助者自身の価値観や実践の検証を。
<2日目 問題定義に対するグループ討議とパネルディスカッション>
コーディネーター/増沢 パネリスト/内海・砂山・芳賀・太田
・大人の感性の磨き方が課題である、などについて討議。前提として、健やか育って当然、ということへの疑い。子どもはうまく育たない。健やかに育つために努力すること、育つことの難しさを理解したうえでの「生きてきたすごさ」に目を向ける。入所児童の生育歴の複雑さなど、関係者は実感しており、より困難な状況になっても不思議ではない、社会的養護の現場であるが、この程度で済んでいるのはなぜなのか。ストレングスに着目したかかわりがすでにあるからではないか。
・「変わりたいけど、変われない」ことが、弱点の裏返しであろう。目に見えないところのみほめられない。どこをほめていいのかわからない。子どもが生き抜いてきたこと、ストレングスを認めて「強みは良さ」見出されるものとは何か。もともと、ストレングスは我々に備わっているのではないのか。作る 見つける、見失ってきたものを再確認し、日本の子育て文化、「おんぶの文化」「地域理解」という日本の良さがある。
FGCなどはひとつのツールであり、意識を固めていかないと、自分たちの文化の根底にあるものへの再確認が必要だ。
・視点を変えて、施設内でカフェを作りそこでの面会を実施したら、面会時間延びた。垣根が取れて母子の交流の様子が見られる。ハード面の工夫で化の生が広がった。ヒヤリハットの取り組みとは別に、「うれしわっは」の取り組みを実施している。子どものかかわり、子ども同士のかかわりで記録し、100個でご褒美。「いいことするといいことあるね」と子どもが言った。
職員間でアプローチの相違があってもいいが、一定の基準設定がないが、今後作る必要がある。かかわりについて助言したとしても否定したようにとられる。
・心理職、家庭支援専門相談員など職種増えたが、チームとして力量が上がったのか。施設スタンダード(標準化)が必要である
・海外研修報告のその後、個々人がどう取り組むかが課題であり、個々の振り返り求められよう。
<2日目 講師まとめ>
・2日間、ストレングスをテーマ議論してきた。ストレングス視点が、なぜ求められるようになったのか。行きつくところ人間同士のコミュニケーションの貧困化や、言語的なものだけではない。その人の何を見て、何をお返ししていくのかが、改めて問われる。プラスを受け止めて、笑顔でフィードバックすることで、子どもは救われる。
・赤ちゃんの誕生そのものがストレングスだ。その場で満面の笑顔、人間の誕生そのものが、驚異と畏敬に値する。受精が奇跡、10か月の奇跡、0歳~1歳の脳のネットワークの動きは宇宙でもある。正確に子育てなければならないという思い込み。子どもの育ち、ずっこけて遠回り、当然マイナス思考になる。
・チームとしてフィードバックが少なくなっている。意識してやっていかないと取り戻せない現状がある。どこにストレングスがあるのか。チームの中で振り返れば、沢山のストレングスを日々発見していることに気が付かないだけかもしれない。意識・再発見の繰り返しが、子どもと私たちの強みになる。